2012年4月6日金曜日

食道がん:[がん情報サービス]


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更新日:2006年11月29日    掲載日:1996年11月25日

1)食道の構造と機能

食道は、のど(咽頭)と胃の間をつなぐ長さ25cmぐらい、太さ2〜3cm、厚さ4mmの管状の臓器です。食道の大部分は胸の中、一部は首(約5cm、咽頭の真下)、一部は腹部(約2cm、横隔膜の真下)にあります。食道は身体の中心部にあり、胸の上部では気管と背骨の間にあり、下部では心臓、大動脈と肺に囲まれています。

食道の壁は外に向かって粘膜、粘膜下層、固有筋層、外膜の4つの層に分かれています。食道の内側は食べ物が通りやすいように粘液を分泌するなめらかな粘膜でおおわれています。粘膜の下には筋層との間に血管やリンパ管が豊富な粘膜下層があります。食道の壁の中心は食道の動きを担当する筋肉の層です。筋層の外側の外膜は周囲臓器との間を埋める結合組織で、膜状ではありません。

食道は、口から食べた食物を胃に送る働きをしています。食物を飲み込むと重力で下に流れるとともに、筋肉でできた食道の壁が動いて食べ物を胃に送り込みます。食道の出口には、胃内の食物の逆流を防止する機構があります。これらは食道を支配する神経と自身の筋肉の連関により働くしくみとなっています。食道には消化機能はなく、 食物の通り道にすぎません。

2)食道がんの発生部位と細胞

日本人の食道がんは、約半数が胸の中の食道の真ん中から、次に1/4が食道の下1/3に発生します。食道がんは食道の内面をおおっている粘膜の表面にある上皮から発生します。食道の上皮は扁平上皮でできているので、食道がんの90%以上が扁平上皮癌です。

欧米では胃がんと同じ腺上皮から発生する腺癌が増加しており、現在では半数以上が腺癌です。腺癌のほとんどは胃の近くの食道下部に発生します。生活習慣、食生活の欧米化により、今後はわが国でも腺癌の増加が予想されます。扁平上皮癌と腺癌は性格が異なるので資料を参考とするときには注意が必要です。

頻度はまれですが、食道にはそのほかの特殊な細胞でできたがんもできます。未分化細胞癌、癌肉腫、悪性黒色腫などのほかに、粘膜ではなく筋層などの細� �から発生する消化管間質腫瘍も発生することがあります。

3)食道がんの進行

食道の内面をおおっている粘膜から発生したがんは、大きくなると粘膜下層に広がり、さらにその下の筋層に入り込みます。もっと大きくなると食道の壁を貫いて食道の外まで広がっていきます。食道の周囲には気管・気管支や肺、大動脈、心臓など重要な臓器が近接しているので、がんが進行しさらに大きくなるとこれら周囲臓器へ広がります。

食道の壁の中と周囲にはリンパ管や血管が豊富です。がんはリンパ液や血液の流れに入り込んで食道を離れ、食道とは別のところに流れ着いてそこでふえ始めます。これを転移といいます。リンパの流れで転移したがんは、リンパ節にたどり着いてかたまりをつくります。食道のまわりのリンパ節だけではなく、腹部や首のリンパ節に転移することもあります。血液の流れに入り込ん� �がんは、肝臓、肺、骨などに転移します。

4)食道がんの統計

年齢別にみた食道がんの罹患(りかん)率、死亡率は、ともに40歳代後半以降増加し始め、特に男性は女性に比べて急激に増加します。

罹患率、死亡率ともに男性のほうが高く、女性の5倍以上です。死亡率の年次推移は、男性では戦後大きな増減はなく近年は漸減傾向、女性では1960年代後半から80年代後半まで急激に減少し近年は漸減傾向にあります。一方、罹患率は、男性では1975年以降増加傾向、女性では1975年以降80年代後半まで減少傾向にあり、その後はっきりとした増減の傾向は見られません。

罹患率の国際比較では、日本人は他の東アジアの国の人や、アメリカの日本人移民に比べて高い傾向があります。

5)食道がんの発生要因

食道がんについては、喫煙と飲酒が確立したリスク要因とされています。特に扁平(へんぺい)上皮癌ではその関連が強いことがわかっています。また、喫煙と飲酒が相乗的に作用してリスクが高くなることも指摘されています。

食道がんが多く見られる南ブラジルやウルグアイでは、熱いマテ茶を飲む習慣があります。中国や日本、香港からも、熱い飲食物が食道粘膜の炎症を通して、食道がんのリスクを上げることを示す研究結果が多く報告されています。熱いものを飲んだり食べたりする食習慣が、おそらく確実なリスク要因でしょう。近年、欧米で急増している腺癌については、胃・食道逆流症に加えて、肥満で確実にリスクが高くなるとされています。予防要因では、野菜・果物の摂取がおそらく確実とされています。

食道がんにかかる方は咽頭(のど)や口、喉頭などにもがんができやすいですし、咽頭や口、喉頭などのがんにかかられた方は食道にもがんができやすいことがわかってきました。

1)無症状

健康診断や人間ドックのときに、内視鏡検査などで発見される無症状の食道がんも20%近くあります。無症状で発見された食道がんは早期のがんであることが多く、最も治る確率が高いがんです。

2)食道がしみる感じ

食べ物を飲み込んだときに胸の奥がチクチク痛んだり、熱いものを飲み込んだときにしみるように感じるといった症状は、がんの初期のころにみられるので、早期発見のために注意してほしい症状です。軽く考えないで内視鏡検査を受けることをお勧めします。

がんが少し大きくなると、このような感覚を感じなくなります。症状がなくなるので気にしなくなり、放っておかれてしまうことも少なくありません。

3)食物がつかえる感じ

がんがさらに大きくなると食道の内側が狭くなり、食べ物がつかえて気がつくことになります。特にまる飲みしやすい食物(かたい肉、すしなど)を食べたとき、あるいはよくかまずに食べたときに突然生ずることが多い症状です。このような状態になってもやわらかいものは食べられるので、食事は続けられます。また、胸の中の食道が狭いのにもっと上ののどがつかえるように感じることがあります。のどの検査で異常が見つからないときは食道も検査しましょう。

がんがさらに大きくなると食道を塞いで水も通らなくなり、唾液も飲み込めずにもどすようになります。

4)体重減少

一般に進行したがんではよくみられる症状ですが、食べ物がつかえると食事量が減り、低栄養となり体重が減少します。3ヵ月間に5〜6kgの体重が減少したら注意してください。

5)胸痛・背部痛

がんが食道の壁を貫いて外に出て、まわりの肺や背骨、大動脈を圧迫するようになると、胸の奥や背中に痛みを感じるようになります。これらの症状は他の病気でもみられますが、肺や心臓の検査だけでなく食道も検査してもらうよう医師に相談してください。

6)咳

食道がんがかなり進行して気管、気管支、肺へ及ぶと、むせるような咳(特に飲食物を摂取するとき)が出たり血のまじった痰が出るようになります。


薬物の仕事を合法ん。

7)声のかすれ

食道のすぐわきに声を調節している神経があり、これががんで壊されると声がかすれます。声に変化があると耳鼻咽喉科を受診する場合が多いのですが、喉頭そのものには腫瘍や炎症はないとして見すごされることもあります。声帯の動きだけが悪いときは、食道がんも疑って食道の内視鏡、レントゲン検査をすることをお勧めします。

3.診断

食道がんの診断方法には、一般にX線(レントゲン線)による食道造影検査と内視鏡検査があります。その他、がんの広がり具合を見るためにCT、MRI検査、内視鏡超音波検査、超音波検査などを行います。がんの進行程度を正確に診断することは、治療法を選択する上で非常に重要なことです。

1)食道造影検査(レントゲン検査)

バリウムをのんで、それが食道を通過するところをレントゲンで撮影する検査です。内視鏡検査が普及した今日でも、造影検査は苦痛を伴わず検診として有用です。造影検査では、がんの場所やその大きさ、食道内腔の狭さなど全体像が見られます。

日本人は胃がんが多いので、通常の検診では胃に重点がおかれ、食道は十分に観察されないことがあります。症状があれば検査前にはっきりと伝えておきましょう。

2)内視鏡検査

内視鏡検査は先端にCCD(固体撮影素子)を搭載した内視鏡(ビデオスコープ)を用いて、直接、消化管粘膜を観察する方法です。内視鏡検査は病変を直接観察できることが大きな特徴です。病変の位置や大きさだけでなく、病変の数、病巣の広がりや表面の形状(隆起(りゅうき)や陥凹(かんおう))、色調などから、病巣の数や、ある程度のがんの進展の深さを判断することができます。食道の内視鏡精密検査では、通常の観察に加えて色素内視鏡を行います。正常な粘膜上皮細胞がヨウ素液(一般にルゴールといいます)に染まるのに対し、がんなどの異常のある部分は染まらないでんぷん反応を利用した方法です。

もう1つの内視鏡検査の大きなメリットは、直接組織を採取し(組織生検)、顕微鏡でがん細胞の有無をチェッ クすることができ、病変の診断に役立つことです。

無症状あるいは初期の食道がんを見つけるために内視鏡検査は極めて有用な検査であり、たとえレントゲン検査で異常が認められなくとも内視鏡検査で発見されることもあります。

3)CT・MRI検査

CT(コンピューター断層撮影)はコンピューターで処理することで身体の内部を輪切りにしたように見ることができるX線検査です。食道の周囲には先に述べたように気管、気管支、大動脈および心臓など極めて重要な臓器が存在しています。

CT検査は、がんとこれらの周囲臓器との関係を調べるためには最も優れた診断法といえます。リンパ節転移の存在も頸部、胸部、腹部の3領域にわたって検索ができます。さらに肺、肝臓などの転移の診断にも欠かせません。進行したがんにおいては進行度を判定するために最も重要な検査です。

MRI検査はCTとほぼ同等の診断能力がありますが、リンパ節をはじめとして描出能の点でCTをしのぐものではありません。

4)超音波内視鏡検査

食道上皮から発生したがんは次第に粘膜下層、筋層へと広がり、周囲の臓器へ広がっていきます。がんがより深く進展しているほど、リンパ節転移の確率が高いことが明らかとなり、また、食道は狭い空間に気管や肺静脈などと隣接しているため、気管あるいは気管支などの周囲の臓器へ直接がんが喰い込むことがあります。超音波内視鏡は、外見上は内視鏡と変わりないのですが、食道内壁の表面を観察する内視鏡検査と異なり、内視鏡の先端についた超音波装置を用いて粘膜下の状態、食道壁そのものや食道壁外の構造などを観察することができます。つまり、食道がんがどのくらい深く進展しているか、周りの臓器へ喰い込んでいないか、食道の外側にあるリンパ節が腫れていないか(リンパ節転移の有無)などについてのより詳 細な情報を得ることができます。これは、治療方針の決定に非常に重要な役割を果たします。ただし、がんのために食道内腔が狭くなっている(狭窄)例では、内視鏡ががんの中心部まで到達できないため、正確な診断ができない場合もあります。

5)超音波検査

体外式(体表から観察する)の超音波検査は腹部と頸部について行います。腹部では肝臓への転移や腹部リンパ節転移の有無などを検索し、頸部では頸部リンパ節転移を検索します。頸部食道がんの場合は、主病巣と気管、甲状腺、頸動脈などの周囲臓器との関係を調べるために行います。

6)PET検査

PET検査(陽電子放射断層撮影検査)は、全身の悪性腫瘍細胞を検出する検査です。悪性腫瘍細胞は正常細胞よりも活発に増殖するため、そのエネルギーとしてブドウ等を多く取り込みます。PET検査では、放射性ブドウ糖を注射しその取り込みの分布を撮影することで悪性腫瘍細胞を検出します。食道がんでも進行度診断での有効性が報告されています。

7)腫瘍マーカー

食道がんの腫瘍マーカーは、扁平上皮癌ではSCC(扁平上皮癌関連抗原)とCEA(癌胎児性抗原)です。腺癌ではCEA(癌胎児性抗原)です。他のがんにおける場合と同様に、腫瘍マーカーは進行した悪性腫瘍の動態を把握するのに使われているのが現状であり、早期診断に使えるという意味で確立されたものは残念ながらまだありません。

4.進行度(ステ−ジ)

食道がんの治療法を決めたり、また治療によりどの程度治る可能性があるかを推定したりする場合、病気の進行の程度をあらわす分類法、つまり進行度分類を使用します。わが国では日本食道疾患研究会(現、日本食道学会)の「食道癌取扱い規約」に基づいて進行度分類を行っています。また、最近では欧米を中心に国際的な分類であるUICCのTNM病期分類も使われています。日本と欧米の食道がんの細胞の種類、発生部位、治療成績が異なるためこれらの分類には一部違いがあります。各検査で得られた所見、あるいは手術時の所見により、深達度、リンパ節転移、他の臓器の転移の程度にしたがって病期を決定します。

0期

がんが粘膜にとどまっており、リンパ節、他の臓器、胸膜、腹膜(体腔の内面をおおう膜)にがんが認められないものです。いわゆる早期がん、初期がんと呼ばれているがんです。

I期

がんが粘膜にとどまっているが近くのリンパ節に転移があるものか、粘膜下層まで浸潤しているがリンパ節や他の臓器さらに胸膜・腹膜にがんが認められないものです。

II期

がんが筋層を越えて食道の壁の外にわずかにがんが出ていると判断されたとき、あるいは食道のがん病巣のごく近傍に位置するリンパ節のみにがんがあると判断されたとき、そして臓器や胸膜・腹膜にがんが認められなければII期に分類されます。

III期

がんが食道の外に明らかに出ていると判断されたとき、食道壁にそっているリンパ節か、あるいは食道のがんから少し離れたリンパ節にがんがあると判断され、他の臓器や胸膜・腹膜にがんが認められなければIII期と分類します。


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IV期

がんが食道周囲の臓器に及んでいるか、がんから遠く離れたリンパ節にがんがあると判断されたとき、あるいは他の臓器や胸膜・腹膜にがんが認められるとIV期と分類されます。

5.治療

各種検査の結果を総合的に評価して、がんの進展度と全身状態から治療法を決めます。食道がんの治療には大きく分けて、4つの治療法があります。それは、内視鏡治療、手術、放射線治療と抗がん剤の治療です。その他に温熱療法や免疫療法などを行っている施設もあります。ある程度進行したがんでは、外科療法、放射線療法、化学療法を組み合わせてこれらの特徴を生かした集学的治療も行われます。

欧米では胃がん検診などでの内視鏡検査は一般的ではないため、症状の無い早期の食道がんが発見されることはまれです。このため、早期がんが対象となる内視鏡治療もほとんど行われていません。進行したがんでは手術の効果も少ないため、手術治療の成績も日本に比べると劣っています。欧米における治療法やその成績を参 考とするときには注意が必要です。

以下各治療法について説明します。

1)外科療法

手術は身体からがんを切り取ってしまう方法で、食道がんに対する現在最も一般的な治療法です。手術ではがんを含め食道を切除します。同時にリンパ節を含む周囲の組織を切除します(リンパ節郭清)。食道を切除した後には食物の通る新しい道を再建します。食道は頸部、胸部、腹部にわたっていて、それぞれの部位によりがんの進行の状況が異なっているので、がんの発生部位によって選択される手術術式が異なります。

(1)頸部食道がん

がんが小さく頸部の食道にとどまり、周囲へのがんの広がりもない場合は、のどと胸の間の頸部食道のみを切除します。切除した食道の代わりに小腸の一部(約10cm)を移植して再建します。なお、移植腸管は血管を頸部の血管とつなぎ合わせることが必要です。のどの近くまで広がったがんでは頸部食道とともに喉頭を切除し、小腸の一部を咽頭と胸部食道の間に移植します。そして気管の入口を頸部の最下端中央につくります。喉頭を切除するため声が出せなくなります。

(2)胸部食道がん

原則的に胸部食道を全部切除します。同時に胸部のリンパ節を切除します。胸の中にある食道を切除するために、右側の胸を開きます。最近では胸腔鏡を使って開胸せずに食道を切除する方法も試みられていますが、その有効性はまだ検討段階です。開胸を行わずに頸部と腹部を切開し食道を引き抜く術式(食道抜去術)もあります。この術式では食道の周囲のリンパ節を切除できません。

食道を切除した後、胃を引き上げて残っている食道とつなぎ、食物の通る道を再建します。胃が使えないときには大腸または小腸を使います。胃や大腸・小腸を引き上げる経路により、前胸部の皮膚の下を通す方法・胸骨の下で心臓の前を通す方法・もとの食道のあった心臓の後ろを通す方法の3とおりがあり、それぞれの病態により選択さ� �ます。

(3)腹部食道がん

腹部食道のがんに対しては、左側を開胸して食道の下部と胃の噴門部を切除します。左側の開胸による手術は胸部・下部食道がんで肺機能の悪い人にも行われます。

(4) バイパス手術

がんのある食道をそのまま残して食物の経路を別につくる手術です。胃を頸部まで引き上げ、頸部で頸部食道とつなぐ方法です。この手術は根治をあきらめ、一時的にでも食べられるようにとQOL(クオリティ・オブ・ライフ:生活の質)の向上をめざしたものです。最近では、これに代わって食道内挿管法が行われます。

(5)外科療法の合併症

手術に続いて発生する余病(合併症)は肺炎、縫合不全(つなぎめのほころび)、肝・腎・心障害です。これらの合併症が死につながる率、すなわち手術死亡率(手術後1ヵ月以内に死亡する割合)は2〜3%です。これらの発生率は、手術前に他の臓器に障害をもっている人では高くなります。

2)放射線療法

放射線療法は手術と同様に限られた範囲のみを治療できる局所治療ですが、機能や形態を温存することをめざした治療です。高エネルギーのX線などの放射線を当ててがん細胞を殺します。放射線療法には2つの方法があります。放射線を身体の外から照射する方法(外照射)と、食道の腔内に放射線が出る物質を挿入し身体の中から照射する方法(腔内照射)です。また、放射線療法は治療の目的により大きく2つに分けられます。がんを治してしまおうと努力する治療(根治治療)と、がんによる痛み、出血などの症状を抑えようとする治療(姑息治療、対症治療)です。

(1)根治治療

根治治療の対象は、がんの広がり方が放射線を当てられる範囲にとどまっている場合です。根治治療の放射線療法は、外照射だけを週5日6〜7週続けるやり方と、外照射5〜6週に2〜3回の腔内照射を組み合わせるやり方があります。

最近、放射線療法と抗がん剤治療を同時に行うほうが放射線療法だけを行うより効果があることがわかってきました。放射線療法に抗がん剤治療を加えることで手術をしなくても治る患者さんが増えたという報告もあります。治すことをめざして治療をする場合は、放射線療法と抗がん剤治療を同時に行うことが勧められます。

(2)姑息治療

姑息治療は骨への転移による痛み、脳への転移による神経症状、リンパ節転移の気管狭窄による息苦しさ、血痰などを改善するために行われます。症状を和らげるために放射線は役に立ちます。症状がよくなれば目的は達成されるので、根治治療のときのように長い期間治療しません。2〜4週くらいの治療です。

(3)放射線療法の副作用

放射線療法の副作用は、主には放射線が照射されている部位に起こります。そのため治療している部位により副作用は異なります。また副作用には治療期間中のものと、治療が終了してから数ヵ月〜数年後に起こりうる副作用があります。

治療期間中に起こる副作用は、頸部を治療した場合、嚥下時の違和感・疼痛・咽頭の乾き・声のかすれ、胸部を治療した場合は嚥下時の違和感・疼痛、腹部を治療した場合は腹部不快感・嘔気・嘔吐・食欲低下・下痢などの症状が出る可能性があります。照射部の皮膚には日焼けに似た症状が出てきます。その他に身体のだるさ、食欲低下といった症状を訴える方もいます。血液障害として白血球が減少することがあります。以上の副作用の程度には個人差があり、ほとんど副作用の出ない人も強めに副作用が出る人もいます。症状が強い場合は症状を和らげる治療をしますが、時期がくれば自然に回復します。

治療が終了してから起こりうる副作用としては、心臓や肺が照射部に含まれているとこれらの臓器に影響が出ること� �あります。脊髄に大線量が照射されると神経麻痺の症状が出ることがありますが、神経症状が出る危険がないとされている程度に照射線量を設定するのが普通です。


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3)化学療法(抗がん剤治療)

抗がん剤治療はがん細胞を殺す薬を注射します。抗がん剤は血液の流れに乗って手術では切りとれないところや放射線を当てられないところにも、全身に行き渡ります。多くは他の臓器にがんが転移しているときに行われる治療ですが、単独で行われる場合と、放射線療法や外科療法との併用で行われる場合とがあります。

(1)化学療法の方法

抗がん剤治療は、何種類かの抗がん剤を組み合わせて使うほうがよく効きます。抗がん剤として現在、フルオロウラシルとシスプラチンの併用療法が最も有効とされています。抗がん剤は点滴の中に混ぜて4〜5日間続けて注射します。腎臓の障害を防ぐために1日に2,500〜3,000mlの点滴を同時に行います。このために入院が必要です。これが1回分の治療で、3週間ほどの休みをおいてもう1回行い、効果があればさらに繰り返します。効果がない場合は別の抗がん剤に切り替えます。

新しい抗がん剤の開発により、大量の点滴を必要としない抗がん剤治療を外来通院で行うことも増えています。

(2)抗がん剤の副作用

副作用は個人差がありますが、薬剤使用中は嘔気、嘔吐、食欲不振はほとんどの人にある程度認められます。しかし、薬剤使用終了後、2〜3日で回復の兆しがみられます。また毎回、投与前には血液、腎機能などのチェックが必要です。特にシスプラチン投与では腎障害を起こすことがあります。したがって薬剤使用中3,000mlぐらいの大量の点滴が行われ、利尿剤を併用し、十分な尿排泄を促す必要があります。そのため夜間頻回にトイレに行くことから不眠となりがちです。尿が出ることは副作用が出ないことにつながるので心配はありません。また、白血球、血小板が減少することがあるので、二次的な細菌感染の引き金になる風邪をひかないことをはじめとして、その他の細菌感染を受けないように注意が必要です。

4)化学放射線療法

食道がんに対して放射線療法単独よりも化学療法と併用して行ったほうがより効果が高いことがわかっています。また、放射線と化学療法を順番に行う方法と、同時併用する方法の比較では、同時併用のほうで効果が高いとされています。現在放射線照射を外照射にて28回〜30回行いながらフルオロウラシルや、シスプラチンといった抗がん剤を同時に投与する方法が一般的に行われています。化学放射線療法には、目的によって、根治的化学放射線療法と、緩和的化学放射線療法があります。

(1)根治的化学放射線療法

化学放射線により完治を目指す治療を行います。病変がすべて放射線照射野に入る場合で、手術可能な症例も含まれますが、手術を望まない人、合併症などで手術のリスクの高い人などが含まれます。がんが気管や大動脈などに浸潤していて手術できない場合にも適応となります。病変の広がり具合により治療成績に差はありますが、完治を目指す治療を行います。臓器機能が低下している場合や患者さんの状態が悪い場合には、放射線療法のみを行います。

(2)緩和的化学放射線療法

全身にがんが広がっており根治的化学放射線療法はできないが、がんで食事が通過しない場合など、局所的な効果により患者さんに利益があると予測される場合に症状緩和を目的に行います。この場合も患者さんの状態が悪ければ、放射線療法のみを行うことをおすすめします。

(3)化学放射線療法の副作用

化学療法と放射線療法を併用することで、効果は上昇しますが、副作用も増加します。食欲不振、口内炎、食道炎や白血球減少などは両者ともに引き起こす可能性があります。副作用の出る時期やその対策を前もって頭に入れておいて、早め早めに薬や食事の工夫などで対応していくことをおすすめします。出たらダメというわけではなく、副作用をいかに安全にコントロールしながら治療を続けるかがポイントです。

5)内視鏡的粘膜切除術

食道壁の粘膜下層までにとどまる「表在型」のがんのうち、粘膜層にとどまりリンパ節転移のない食道がんを早期食道がんと定義しています。内視鏡的粘膜切除術(EMR)は、この粘膜にとどまったがんを内視鏡で見ながら食道の内側から切り取る治療法です。1時間くらいで治療でき、翌日から食事も可能で、入院も短期間で済みます。治療後は食道粘膜が再生してきますので、治療前と同様の生活ができます。ただし、広範囲に切り取った場合には治療した痕が引き攣れたり、狭くなる場合があります。過度に狭くなった場合には、内視鏡を用いた拡張術(内腔を広げる治療)が必要になることがあります。切除した組織を顕微鏡で詳細に検索した結果、もし治療前診断と異なりがんがより深く進展していたり、リンパ管や静脈へがん が及んでいた場合には、がん細胞が食道の外側のリンパ節などに広がっている可能性があるため、追加の外科手術や放射線治療、化学放射線治療が必要になります。

6)食道内挿管法

がんによる食道の狭窄のために食事摂取が困難な場合に、シリコンゴムや金属の網でできたパイプ状のものを食道の中に留置して食物が通過できるようにする方法です。食道に穴があいて食物が外に漏れて肺炎などを起こす場合には、穴をおおうためにも使います。手術をしなくとも内視鏡を用いてできるので負担が少なく、QOL向上のためには有用な治療法です。

6.病期(ステージ)別治療

治療は主に病期により決定されます。同じ病期でも、病気の進行ぐあい、全身状態、心臓・肺機能などによって治療が異なる場合があります。

0期

次の治療のいずれかが選択されます。

  • 内視鏡的粘膜切除術
  • 外科療法
  • 化学放射線療法(放射線療法と抗がん剤の併用療法)
  • レーザー治療(内視鏡的粘膜切除術が適切でない場合

粘膜にとどまるがんでは、食道を温存できる内視鏡的粘膜切除術が可能です。切除した組織でがん細胞の広がりを調べることができないため、レーザー治療は標準治療ではありません。がんの範囲が広いために内視鏡的に切除できない場合には、手術で切除します。

I期

次の治療のいずれかが選択されます。

  • 外科療法
  • 化学放射線療法(放射線療法と抗がん剤の併用療法)

外科療法が標準治療です。化学放射線療法により、手術をせずに臓器を温存しつつ手術と同等の治癒率が得られるという報告も出てきました。化学放射線療法と外科療法の効果を比較検討する研究も始まっています。

化学放射線療法では、放射線療法の効果を高め再発・転移を予防するための化学療法は放射線療法と同時に行います。しかし、化学放射線療法では副作用は放射線療法のみに比べると強くなるので、体力が十分でない場合は放射線療法のみが望ましい場合もあります。

II期 III期

次の治療のいずれかが選択されます。


  • 外科療法
  • 外科療法と抗がん剤または化学放射線療法の合併療法
  • 化学放射線療法(放射線療法と抗がん剤の併用療法)

外科療法が標準治療です。治療前の検討で、手術によって完全にがん病巣をとり除くことができると判断され、体力(心臓や肺の機能、あるいは重い合併症の有無など)も手術に耐えうると判断された場合には外科手術が選択されます。再発・転移の防止のために手術前後に化学療法または化学放射線療法を行うこともあります。手術前あるいは手術後に化学療法または化学放射線療法を行うほうが手術療法単独より優れているという報告もありますが確定的ではありません。手術に他の治療法を組み合わせる治療法は、手術療法単独より優れているかどうかを確かめるために臨床試験として行われています。

一方、治療前の検討で体力が手術に耐えられないと判断された場合には、放射線療法が選択されていました。その後、化� �放射線療法のほうが放射線療法単独より治療効果が高いことが証明されました。化学放射線療法の進歩により、手術が可能な場合でも手術をせずに、臓器を温存しつつ、手術と同等の治療成績が得られるという報告も出てきました。化学放射線療法と外科療法の効果を比較検討する研究も始まっています。

IV期

次の治療のいずれかが選択されます。

  • 化学療法(抗がん剤治療)
  • 化学放射線療法(放射線療法と抗がん剤の併用療法)
  • 放射線療法
  • 痛みや他の苦痛に対する症状緩和を目的とした治療

通常、IV期では手術を行うことはなく、抗がん剤による化学療法が行われます。明らかながんの縮小を認めることもありますが、すべてのがんを消失させることは困難です。かなりの副作用があるため、全身状態が不良な場合には化学療法ができないことがあります。また、がんによる食道の狭窄により食物の通過障害があるときなど、症状に応じて放射線療法も行われます。

IV期ではがんによる症状を認めることが多く、痛みや呼吸困難などの症状を緩和するための治療が重要になります。症状緩和の治療技術はかなり進歩してきており、多くの症状を軽減することが可能となっています。

7.治療後の通院

がんの治療後は、機能の回復をチェックし、再発の早期発見のために通院する必要があります。治療後に食事が順調に食べられるようになるまでは、がんの進行度にかかわらず1ヵ月に1回程度の診察を受けます。

がんの進行度が進んでいて再発の危険度が高い方ほど通院する回数が多くなります。時間がたつほど再発の危険度は減り、3〜6ヵ月に1回程度の診察となります。

8.再発

最初の治療で完全に消えたようにみえても、わずかに残っていたがん細胞が増殖して症状が出たり、検査などで発見されるようになった状態を再発といいます。食道がんの再発のほとんどはリンパ節と肺、肝臓などの臓器や、骨への転移です。首のつけ根のリンパ節に再発すると首がはれてきたり声がかすれたりします。胸や腹部の奥のリンパ節に再発すると背中や腰に重苦しい痛みを感じます。肺や肝臓への転移は大きくなるまではっきりした症状は出ません。しかし、体重が減る、食欲が落ちる、疲れやすくなるといった症状が出ることがあります。肺の転移が大きくなると胸の壁を押して咳が出たり胸の痛みを感じたりします。肝臓の転移が大きくなると腹部がはって重苦しく感じます。骨への転移は痛みを感じます。もともとのが� ��が大きかった場合には、がんがあった場所に再発することがあります。気管や気管支に再発すると、咳が出たり血のまじった痰が出たりします。

再発の場合には、再発した部位、症状、初回治療法およびその反応などを考慮して治療法を選択します。手術をすることはほとんどありません。胸の奥や腹部の奥のリンパ節への再発には放射線治療か化学療法(抗がん剤治療)を行います。肺や肝臓、骨への転移は抗がん剤治療を行います。その他、モルヒネなどの痛み止めを用いる症状緩和のための治療が選択されます。

どのような治療をしても、再発したがんが治る可能性は非常に少ないと考えねばなりません。再発した場合には、およそ半年ぐらいの余命と考えられます。放射線治療や化学療法で1年以上生きられることもあ りますが、がんの進行が早ければ3ヵ月以内のこともあります。

9.生存率

生存率は、通常、がんの進行度や治療内容別に算出しますが、患者さんの年齢や合併症(糖尿病などがん以外の病気)の有無などの影響も受けます。用いるデータによってこうした他の要素の分布(頻度)が異なるため、生存率の値が異なる可能性があります。
ここにお示しする生存率は、これまでの国立がんセンターのホームページに掲載されていたものです。生存率の値そのものでなく、ある一定の幅(データによって異なりますが±5%とか10%等)をもたせて、大まかな目安としてお考えください。

悪性度が高いといわれる食道がんでも、いわゆる早期のがんの治療成績は良好です。0期のがんでは内視鏡的粘膜切除術で切除された後の5年生存率は100%です。粘膜にとどまるがんでは内視鏡的粘膜切除術で切除できない場合でも、手術で切除できれば5年生存率はほぼ100%です。がんが粘膜下層まで広がってもリンパ節転移を起こしていなければ、手術で80%が治ります。日本食道疾患研究会の「全国食道がん登録調査報告」では、手術で取りきれた場合の5年生存率は、ほぼ54%に達しました。

国立がんセンター中央病院で1996年〜2000年に手術を受けた方の5年生存率は、TNM分類による進行度I期:70.1%、進行度IIA期:48.4%、進行度IIB期:55.8%、進行度III期:26.3%、進行度IV期:20.3%でした(食道がん以外の原因で死亡した場合も 含みます)。

これまでは外科療法が主な治療法でしたが、シスプラチンとフルオロウラシルなどの化学療法が積極的に導入され、さらに化学放射線療法(放射線療法と抗がん剤の併用療法)も試みられています。化学放射線療法で、手術治療と同じ5年生存率が得られたという報告もあります。

しかし、他の臓器にがんが広がっている方、多くのリンパ節にがん転移を認める方に限定すると、外科療法でも化学放射線療法でも治癒は困難です。残念ながら、高度に進行したがんを治癒できる治療法は確立されていないということです。

したがって、早期発見が治療成果を向上させる鍵です。検査を恐れず、少しでも症状があったら検査を受け、早期発見・早期治療を行うことが大切です。どのがんでもそうですが、特に食道� ��んはいったん進行すると急に治癒率が下がります。早くがんを見つけるためには日頃から食道の症状についても注意が必要です。

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