■治療学・座談会■
出席者(発言順)
(司会)吉川純一 氏 大阪市立大学循環病態内科 教授)
和泉 徹 氏 北里大学内科学 II 教授
金 勝慶 氏 大阪市立大学分子病態薬理学 助教授
友池仁暢 氏 国立循環器病センター 病院長
■禁忌であったはずのβ遮断薬の有効性
吉川 だいたい一般治療に関してはお話いただきましたので,次に,少しフォーカスを絞ってお話を承りたいと思います。
まず,β遮断薬について。われわれが心臓病学を始めたころはβ遮断薬が心不全治療に用いられるとは夢にも思っていませんでした。 この点も含め,なぜ有効なのか,あるいは使い方のポイントなどについて,お話し下さい。
和泉 β遮断薬の有効性の機序はまだ明らかになっていませんが,後ほど金先生にぜひ薬理学的な解釈を展開していただきたいと思います。
歴史的な経緯から申し上げれば,Waagstein は「1960 年代に最初の経験をした」と言っています。 そして 1975 年の"British Heart Journal"に拡張型心筋症にβ遮断薬が奏効した症例を報告して以来, 彼を提唱・推進役の中心として慢性心不全のβ遮断薬治療は展開してきました。 その間に多くの批判や抵抗があったことは事実です。 しかし今日,β遮断薬の効果を疑う人は誰もおりません。 ですから,拡張型心筋症においては「非特異的な特異療法」という変な説明がされてはいますが, 治療薬としての確固たる地位を確保したことは間違いありません。
簡単ないい方をすれば,慢性心不全に陥っている心筋組織では何が起こっているのでしょう。 そこでは大きな意味で 2 つの事件が起こっています。 1 つはカテコラミンの過剰な刺激であり,2 つ目は,これは後からも問題になると思いますが,レニン−アンジオテンシン系の活性化です。 この 2 つが病勢を進め,病態形成に寄与しているという理解です。
これに対してβ遮断薬は,カテコラミンの過剰な刺激に対する直接的な抑制効果のほかに, ACE 阻害薬との併用下ではレニン−アンジオテンシン系をも抑制し,過剰な 2 つの心筋反応をともに抑制します。 その結果,現在ではむしろ心筋細胞そのものよりも,マトリックスに対する 2 つの経路を通じた抑制効果により, 最終的に Ca 過負荷状態の心筋細胞の反応性を取り戻していくと考えられています。これが一番わかりやすい説明だと思います。
■β遮断薬使用は心臓移植の適応条件でもある
和泉 私たちがβ遮断薬を使うときには,その適正なβ遮断薬効果を狙っていけばいいのですが, それがどれぐらいであるのかがまだ指数化されていないのが現状です。となると,β遮断薬療法は漸増療法が原則です。 ある一定の量をポンと与えて効く,効かないという乱暴な評価をすることはできません。
メトプロロールの経験を申し上げますと,重症の場合,1.25mg という吹けば飛ぶような少量をまず投与し,それで心拍数と血圧の反応をみます。 そして,心拍数で 10%ぐらい,収縮期血圧も 10%ぐらいの減弱が安静時にみられればβ遮断薬効果が出たと判断します。 確認できない場合には動いてもらい,軽い負荷をかけて運動時の心拍数や血圧で 10%ぐらいのβ遮断薬効果が現れたところでやめる,というやり方をします。 拡張型心筋症の重症例で,この方法を用いて 1 年間,どれぐらい症例が導入可能かを調べてみました。85%の患者は大丈夫です。
現在,私たちはカルベジロールで試みていますが,それを上回る成績を出せそうです。 カルベジロールのほうが使いやすい薬剤かなという感じがしております。
拡張型心筋症例にβ遮断薬療法を試みることは,どうしても必要な治療プロセスであると思っています。 私は日本における心臓移植適応委員会に参加していますが,心臓移植の適応をみる時にもこのβ遮断薬治療の効果の有無を必ず問うことにしています。 β遮断薬効果をチェックしていない患者は心臓移植を原則認めないという形で対応しています。
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